珍しくまともに面白かった今回。したがって感想が書きづらい。




ガンダムSEEDデスティニー42話 自由と正義と


<あらすじ>
オーブの危機にアークエンジェル隊が出撃。シンたちと激闘を繰り広げる。


<みどころ>
ザフト軍によってオーブが、シンによってカガリが追い詰められたところに颯爽とキラたちが登場。ひとまず戦線が膠着する。
その間に全てを吹っ切ったアスラン、ジャスティスを駆って戦場の空へと舞い戻る・・・


と、れいによって夏休みになると俄然面白くなるSEED。スタッフの主力が中高生のバイトなのだろうかとかんぐってしまう。

本編はこれぞガンダム!を地でいく手に汗握る激闘の連続。とはいえ勝って欲しいほうが絶対勝てないのが目に見えているので微妙なところ。この番組、事前情報ナシで見た人はアークエンジェル側が主人公だと判断してしまうのではないか。


今回もポイントがいくつか。


まず、アークエンジェルの秘密ドックについて。序盤でロアノーク大佐が解放されているのだが、露天に戦闘機が発進しようとしているのに誰も妨害に来ない。オーブはザフトの総攻撃にさらされているはずなのに、である。

のみならず、全編を通じてアークエンジェルの秘密ドックがある島が戦場になっていない。アッシュ暗殺部隊はラクスの家に正確に攻め寄せたのにどうしたことか。少なくともストライクルージュ打ち上げのポイントは特定できるはずなのだ。ここでもラクスの二年間の浸透作戦が奏功したと言うことか。ここでは、グラスゴー隊がそのままラクス軍にとりこまれたために情報がまだ漏れてないと解釈したいところだが・・。

ところで、シャア議長には高さの概念があるのだろうか?潜水部隊を効果的に使わないことといい、空を押さえているメリットを生かさないことといい、心配になってしまう。この人チェスの2次元を全てに当てはめてそうだしなぁ。


かくして出撃したアークエンジェル、ミネルバとのガチンコの構図。とはいえ、死角から仕掛けるメリットを全く生かさないアークエンジェル。どこまでも騎士道にのっとり、真正面からミネルバに仕掛けている。
ミネルバが着水していたシーンがあるわけで、水中から狙い撃っていれば勝敗が決しそうなのだが・・・
そのザフト、ヘブンズベース戦に比べて動員兵力がやけに少ない。艦艇が半数以下である。おまけに議長も出てきていない。

今回またしても潜伏に成功したネコ男といい、両者の水面下でのつながりに期待したいところ。



っと、大事なことを忘れていた。




この世界では奇襲などという卑怯千万な戦法は没義道だった。大変失礼いたしました。

※没義道(もぎどう):人間としてしてはいけない最低以下の行為のこと。




さて、オーブ上空、カガリ 対 シンの対決。
カガリがシンに勝てないのはまぁ予想通りなのでいいのだが、問題はその内容。


ビームが効かぬと見て取ったシンが白兵戦を仕掛けてくるのに対し、カガリ、身動きできず。主君危うしと見て部下たちが馳せ参じる。
この部下たちも歯が立たず一瞬で全滅しているのだが、カガリはこのとき、
自分ひとりになるまで何もしていないのである。ほぼ絶対に近い防御力を持つ機体に乗っていながら、援護ひとつしていない

前にトダカが死んだ回で泣いていたあのときも、そういえば部下を体を張ってまで止めるということはしていなかった。そして今回の見殺し。
自分ひとりで責任をかぶって潔く殴られたユウナとの何たる違いか。とはいえ、本質が真逆なのに多数の人間にはカガリ=善、ユウナ=悪、の構図に見えることであろう。政治家にとってイメージとはかくも重要なのだ。


この戦いぶりに、「アンタが大将機か!?・・・・たいした腕もないくせに!!」とシン。下の者を平気で使い捨てにするこの戦いぶりはシンとしても最も忌み嫌うものなのではあるまいか。アスハらしいといえばどこまでも『らしい』やりくちである。
けっきょく、
アスはアスの宿敵なのではなかろうか。


そのカガリのピンチに颯爽と登場したのはジャスティスを従えたキラ。そのままシンに打ちかかる・・。
というわくわくドキドキのシーンはさておき、ポイントはラクス。政略が際立っている。

キラとともにジャスティスに乗って大気圏に突入、戦火の中をかいくぐりアークエンジェルに無事着艦。(注:アークエンジェルはすでにミネルバとマッチアップ中なのである)。
こんな離れ業をやってのけたにもかかわらず、平然と『私はただ乗っていただけです』とのたまう。それも専用のパイロットスーツを身にまといながら、である。キラがフリーダムを強奪した際にはザフトのパイロットスーツを着ていたし、ラクスは宇宙の戦場でも宇宙服を着ていたためしがない。そのラクスが専用スーツまで持ち出して鮮やかにMSを操って見せたのだ。これはもう「MSは私にだって動かせるんですよ?」という示威以外の何者でもない

やや後になり、ラクスの『秘蔵っ子』ことドム隊が宇宙より飛来、鮮やかな活躍を見せる。
このときもあっけにとられるアークエンジェルクルーに対し、『降下ポッドのMSは味方です』とのこと。あの情報通のミリィを出し抜いたのもさることながら、問題はマリューが驚いていることである。彼女はラクスと2年間起居をともにしていたはずなのだ。

これらの行動が意味するところは何か?といえば、引き締めであろう。
グラスゴー隊との戦闘の折、キラが駆けつけるという連絡はエターナルに入っていない。このミスも踏まえて、

「お前らに教えてないことなんて山ほどあるんだよ。ぶったるんだ真似してたらどうなるかわかってるよね??」
と言ったように思えてならない。

議長との直接対決を控えたこの時期だから意味のある行動であるし、生まれながらに人を統べる星の下にある存在も、また、真なのである。
今回のハイライトであるアスランの覚醒にしても、それは『ラクスの駒である』ことを本能が潜在的に感じ取った結果かもしれないのだ。


してみると、ジャスティスを唯一狙撃しえたシンは千載一遇のチャンスを逃したことになる。


もうひとつのハイライトが、キラとシンとの対決。
フリーダムそのものの姿のストライクフリーダムをキラと直感するシン。2体あったとかいう発想はないらしい。この人自分の腕にそこまで自信がないのだろうか(まぁ間違っちゃいないけど)。虎の子の腹スキュラを早くも使うキラ。シンの攻撃に無駄がないのは今回のアカツキ戦でも証明されているので次回以降が楽しみなところ。頼むから腹刺しにいかないでくれよ。

とはいえ、エネルギー切れがあるシンはどうしても不利になる。相手条約違反機だもん。
どうみてもこのテロリストどもを鎮圧すれば戦は終わりなのだが、そうも行かない模様。

カガリにしても親ジブリール政権を倒した時点でザフト軍との交渉が可能なはずなのに、それすらも行われていない。

混迷を極める中、戦局は第二ラウンドへと推移していく・・・。


そのほか小ネタ。

メイリンはアークエンジェルに残ることを決意した模様。戻るのがこわいらしいがレイの言葉ではなく姉のことしか思い出していない。
ルナマリアは妹を的に射撃の特訓でもしていたのだろうか?

ドム隊、ジェットストリームアタックをお披露目。とはいえあの戦法は多数を一機に見せ、敵の死角をついて攻撃をすることに意味がある。あの使い方で意味があったのだろうか?

ユウナを尋問するカガリ。ユウナに満足にしゃべらせず一方的にまくし立て殴っているところがポイント。正しいか、ではなく主導権を取った方が勝ちなのだ。繰り返すがユウナは外交上そこまで稚拙だったわけではない。むしろカガリなどよりよほど基本を押さえている。これまた繰り返すがイメージ以外は。

どうでもいいがMSは今回も全く回避運動を取っていない。オーブにいたっては避難勧告すら出されていなかった模様。

アークエンジェルのピンチに颯爽と駆けつけるネオ(ムウ?)『ミネルバが嫌いだから』とのこと。そりゃそうだ。この人オーブが陥落したら自動的に戦犯として国際法廷にかけられるだろうからなぁ。(エクステンデッド関連ではクロになるはず)

シンとレイは対等、ともにフェイスで命令関係ないはずなのに『命令』の言葉でレイに従うシン。権限の意味をわかっていないのか刷り込みなのか微妙なところ。



ラスト、CICに座るので精一杯だったはずなのに元気に出撃しているアスラン。気合は全てを凌駕するのである。
うん、やっぱりオーブって強い国だね底力だね精神力だね神風マンセー

この番組が放映されたのは2005年8月6日。原爆投下から60年を経た今日、21世紀を代表する国民的ガンダムでは「気合で国難を跳ね返せる」との内容である。これも一方の結論なのか。


CE世界で描かれているものは何か?
いい加減な理由をつけ保身に走る男、かわいい顔してえげつないことをする政治家娘。国民を犠牲にしたばかりか2年後にもまだ国民を縛るロンゲの首長。前作で何も守れなかったくせにこの世界で他の誰かの大事なものを傷つける人間たち。他人や機械に頼り、命に関わる危機にすら全く対応できず、一方で情報に踊らされる主体性のない市民たち。
今と変わらない、いや今よりもひどい人の醜さである。

自由、正義。革命や流血の口実に必ずと言っていいほど登場する言葉である。それはこのCE世界でも例外ではない。
が、その実態は何か?人が進化したはずのCE世界でも、満ち溢れているものは自由を騙る無知と誤謬であり、正義の名の下の欺瞞である。

翻って、大戦から60年、学ばない日本人。
僕たちは、この60年で何を作り、何を失ったのだろう?そして、何と戦うべきなのだろう?


今回の最後に、努力して未来に向き合う若者、つまりこれからの世代の少年・シンに、かつて人の希望になりかけた存在・レイが語って遺すシーンがある。


『あれは亡霊だ。今度こそ沈めるぞ!』




まさに箴言である。これこそ、若者たちへの憂国の志士・福田監督からの熱いメッセージなのではないか?。

正義や自由という言葉の魔力こそ、『亡霊』なのではあるまいか。その言葉を冠する引き際をわきまえない旧時代の人間たちともども。
ガンダムSEEDで描かれているのは、我々が克服すべき醜い現実の縮図なのだ。


思えば、この物語の発端にすでに伏線がある。


すべては『
亡霊の痛み(ファントム・ペイン)』という名の敵の襲来から始まったのだから。


<けつろん
で、当然シンが勝つんだよね?





そういえばちょっと追記。
今回の目玉の一つに新旧の主役艦対決がある。ミネルバとアークエンジェルが派手に撃ち合うのだが、お互いに被害がまったく出ていない。普通の戦闘ではボコスカ食らってるのにどうしたことだろう。

どうでもいいが今回気になった表情を二つ並べると凶悪犯罪の加害者と被害者みたいだ。




被害者の美人OL、タリア=グラディスさん(28)。
子供と平和な家庭を持つのが夢だった。


マリュー=ラミアス容疑者(27)。
エリート公務員の人生はどこで狂ったのか?




過去の恋人のために操を守った女と出世のために股を開く尻軽女、とかいう対比なら全く別の評価になるはずなのに。
イメージってやっぱ大事だねぇ。





追記その2。下の画像を見て欲しい。無事に?逃げおおせたジブリールなのだが・・





彼にここまで人望があったのもさることながら、何か気がつかないだろうか?
私も他のサイトを見るまで全く気がつかなかった。Have a guess....


準備ができたら下へどうぞ。













そう、ネコ。ネコ男の面目躍如である。
逃避行の間中いつも一緒だったようである。ここまでくると、これはもう根性と言うほかない。
というよりも、自分の身が危ない状況であり続けたにもかかわらず、気に入った存在であればこうまでしてとことん守る。尾羽打ち枯らしているはずのジブリールになぜ部下がついてくるのか、この一事だけでも生き生きと伝わってくるというものだ。人望とは何か?リーダーの条件とは何か?今回のカガリの行動と対比すればなおさらなのではなかろうか。

カガリのように表面をうまく取り繕いながら平気で他人を踏み台にできることも条件であろうし、ジブリールのように、冷徹のように見せて他人のために体を張れることもまた、資質。これらの本質を外見上は正反対である人間たちに持たせるあたり、さすが司馬遼太郎を継ぐ漢・福田監督。散漫な群像劇のように見せてポイントをしっかりついている。天晴れというべきであろう。






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