ガンダムコラム(SEED)。

できの悪い子ほどかわいいんです、はい(汗

<シン=アスカの勝利学>

第34話『悪夢』におけるフリーダム撃破について。

一言で言えば
友情努力勝利なのだが、色々なビジネス本やメルマガに謳われる鉄則がしっかり網羅されているので詳述してみる。

 

@断固たる意志を持ち目的を明確にしていること

マユのことを全く忘れているのはともかく、シンは最初から最後まで一貫して『フリーダムを倒す』という強い意志を持ち続けている。目的意識としてもはっきりしており、わかりやすい。まずは目的を見定めることが何より大事なのではあるまいか。

キラの場合は「戦力を無力化して戦争を止める」ことが従来の目的であったが、今回は「逃げる時間を稼ぐ」ことと目的が二つ生じてしまっている。そのために生じた隙もシンに突かれている。これは前回のアスラン(セイバー)とキラの戦いの際にも言えることであるが、なにごとにも動機付けは決定的に重要なファクターとなるのではあるまいか。

付け加えるなら、キラの動機はラクスという他者の受け売りであり、シンの場合は個人的ながら極めて内発的なものである。これまでキラは実力が冠絶していたから問題にはならなかったが、伯仲している場合にはわずかずつの差が積み重なってボディブローのように効いてくる。

 

 

A計画をしっかり立てていること

今回の戦い方を見ていてわかる通り、レイというチームメイトの協力、邪魔な先輩への最小限の対応、メイリンとの息の合ったコンビネーションと、明確に準備がなされ、戦い方の計画が成り立っていた痕跡がある。動機とも関連しているが、シンはこの戦いに明確なゴールを持っている。それはフリーダムの撃墜である。その計画は当然、ザフト軍によるアークエンジェル撃破作戦と密接にリンクしている。このため、シンはアークエンジェルではなくフリーダムだけを、それも撃破目的で一直線に狙うことができた。

これに対し、キラはどうであったか?

国を出たときからこうした事態は予測されてしかるべきはずなのに、行き当たりばったりの感が否めない。やはり自軍の戦力と名声に奢っていたと言わざるを得まい。

 

 

B相手をよく分析していること

データが手元にあるにもかかわらず、「現在の世界で二番目に強い機体」インパルスの分離合体機能すらよく理解していなかったキラ(だから攻撃をかわされたときに驚いている)に対し、フリーダムの動き、傾向をしっかり研究した上で対策を練っていたシン。過去の撃墜例から動きのモーションキャッチまでその調査には漏れがない。フリーダムにいたってはどうか?そもそも敵機の動きを録画するということすらしていなかったのではあるまいか?

戦いに赴く以上は情報が命である。ラクス軍が強かったのは少数精鋭だったからではなく、それを効果的に生かして戦っていたからである。ラクス不在のアークエンジェル、しょせんただの戦闘集団ということか。

 

 

Cチームワーク

今回のシンの行動に対し、ルナマリアとアスランをのぞく全員が協力している。色々ないきさつがあったとはいえ、寛大にシンを送り出し、精神集中を妨げなかったタリア。分析に積極的に協力したレイ。事前の入念な打ち合わせの結果、期待によく応え的確に予備パーツを射出したメイリン(あの速さは事前に用意していなければとても無理であろう)。シンの思うままにインパルスを動かせるようにベストの調整をしたメカニックたち。普段使わない「同じ予備パーツを二回使う」ことにもみな即応できていることを見ると、シンは周りとの人間関係をそれなりに大事にしているのであろう。日頃の誠実な振る舞いはこうした土壇場で生きてくる。

たとえばアスランとルナにゲイツなりバビ、いやヘリ一機でもいい、提供した者がいただろうか?アスランとシンの熱意の違いは誰が見てもすぐにわかるものだったといえる。

 

 

D計画を何度もシミュレーションしていること

こうした入念な計画に基づき準備をしたシン、フリーダムの攻撃を紙一重でことごとくかわし、ソードシルエットを武器ラックとして使用、空中で換装をしたのみならず投げたシールドにビームを反射させて当てるという離れ業までやってのけている。また、流儀に反しキラがコクピットを狙ってきたときでさえ、予測していたかのごとく落ち着いてかわしている。つまりはキラの鉄壁の防御の破り方から「キラが不殺を破ったとき」も想定していたということである。彼の基礎的な力は後述するとして、フリーダムの動きを何度も何度もシミュレートした上での動きの練習はきっちり反復していたのであろう。同じ種割れ同士、機体で劣るシンがここまで押し捲っていたのはひとえに重ねた努力のたまものである。

 

 

E主導権を常にとっていること

今回、仕掛けたのも戦場を指定したのも狙いを定めたのも一方的にザフトである。キラたちにしてみればザフトとの確約は何もないわけで、自分たちのしたことを考えればミネルバが攻撃してこないはずだ、というのはただの勝手な思い込みに過ぎない。動向をキャッチしていれば戦力差を生かして当然『後の先』は取れたであろう。が、実際にはキラたちがそれをする前に駆けつけたシンが的確にフリーダムを他の戦場から切り離している。これもひとえに日頃の認識の差であろう。

 

 

F戦略レベルでの勝利(戦う前に勝っている)

アークエンジェルのオーブ軍が戦闘できないように外交面で足かせをかけた上、有利な地形で仕掛けている。また、役割分担も事前にしっかり決められている。カガリ・ラクスに前大戦の英雄キラを擁するアークエンジェルにはいくらでも外交的な対策も弁明もあったはずである。それをする戦力も、その時間も。ではなぜか?やはり動機とか目的、そして認識といったものの問題であるまいか。

 

 

G勝てるだけの戦力があったこと

上述のことは全て、スーパーエースとしてのシンの名声、実力、インパルスの分離能力(キラの無力化戦法が無効になる)と戦闘能力、ザフト軍の連携、そして政治面でのアークエンジェルの孤立化があって初めて成立しうる。外堀を埋めた上で相手を上回る戦力で相手を分断、殲滅しているわけだ。逆に言えば犠牲を覚悟でアークエンジェルを倒しうる戦力を動員することがアークエンジェル撃破の最低条件になる。アスランではなくシンがキラを撃破できたのはこの戦力による差である。(フェイスの権限をフルに使ったアスランがプロヴィデンスあたりで仕掛けていればあるいは結果が違ったかも知れない。)

 

 

H一度決めたことを他人に流されなかったこと

プロ意識とでもいうべきか。一度決めたら目標にまい進し、ノイズ(アスラン)に全く乱されなかったシンと最後まで余計なものにとらわれて優先順位を誤ったキラ。

また、勝って兜の緒を締めよ、ということでもある。スーパーエースとして持ち上げられても目的を見失うことなく一途に追及したシンと、自軍の戦力を省みず正義の味方のような行動を取ってしまったキラ。現実でも目先に流されて自分の拠って立つところを見失う人間は多いのではあるまいか?

 

つまり、認識であり、己の分を知ることである。

アークエンジェルは最初は追われるものとして海底に潜伏し、自軍の位置を気取られないように細心の注意を払ってきた。オーブの残党を吸収しても対外的には正規軍に変わったわけではない。

それがいつの間にか、世界の平和維持軍であるかのように錯覚してしまった。

これに対し、自分の立場と役割をしっかり認識していたシン。

神話的な名機フリーダムに乗る「軍神」を撃墜できたのはシンが天才だからではない。謙虚な姿勢で正しい努力をしたからである。

 

 

ここまで書いてきた項目はそのまま、ラクスが天下を取ったときにしっかり押さえていた鉄則でもある。結局、慢心によって基本的な認識が狂った時点でアークエンジェルの結末は見えていたのだ。

(2005.6.11)

もどる