ガンダムコラム(SEED)。

ほとんどさいごのあがき。

<レクイエム防衛戦の意義>


49話『レイ』で疑問に感じたことのひとつに、

なぜ無意味な分散をする?戦術がむちゃくちゃじゃないか?というものがある(ある意味いつものことだが)。

このことに関しては今回の戦闘、両首脳の思惑が語られている。
ラクスのいわく『スピードが要。分散している敵に集結されると厳しい。』
シャア議長のいわく『問題は数でも装備でもない。』『ていうかレクイエム守備隊は捨て石だし。』

この場合はスピードというより集中のほうが優先度が高いと思えるため、ラクス発言にも違和感を感じた。とはいえ
シンレイがぐだぐだ優等生発言してる間に中継点が落ちているわけだから、ラクスたちは結果的にスピードのおかげで勝っている。

問題は議長の発言。まず後半から検証する。彼の意図は中継点の戦力がラクス軍を消耗させ、次のラウンドでのシンレイによる攻撃を少しでも有利にすることにある。が、本編を見る限りラクス軍はまったく消耗していない。つまり
分散の目的が達成できていない。

では、前半の『数でも装備でもない』はどうか?
ジブリール死亡の回で少し触れたが、この世界ではMSの用途が分化の傾向にある。ガンダムと準ガンダム、でかいやつ、それ以外の雑魚の役割分担がはっきりしているのだ。つまり雑魚は群れればでかいのと準ガンダムには勝てるが、何百機いようがガンダムには絶対勝てない。ガンダムに勝てるのはガンダムだけ、ただし準ガンダムならある程度の時間稼ぎができる、という力関係である。

また、MSと艦艇に関しては前作ですでに一般MS>>アークエンジェル、エターナルであった。今回の主力はセカンドステージ機であり、彼らを相手にはたとえキラが乗っていてもストライク(つまり前作のG)では圧倒できない、ということも『天空のキラ』で示されている。そう考えるとラクス軍の戦力で敵中突破が可能なのはアスキラ、ムウとドム、つまり合計6機でしかない。本編での出撃のタイミング、使われ方を見ているとムウとドム(&ムラサメ)は守りに回っているので、議長側の勝利条件は

@アスキラを攻撃目標に近付けさせない
Aアスキラの母艦を撃沈する

で達成できるはずである。具体的に言えばアスキラの動きをシンレイで止めている間にほかの連中を数で圧倒して片付けてしまえばいいのだ。

つまり、装備(質)は数(量)に条件として勝るが、数を生かした戦い方も可能、という構図である。

とはいえ、議長の用兵思想は本編を見ている限り、あくまで決戦部隊による敵戦力の撃滅であり、補給ラインの遮断ではない。その制約下において、彼の配置は力関係の原則には一応当てはまっている。だからこそ、準ガンダムまでしか持っていなかった連合に対して勝利も収めている。
つまり、
議長の『数でも装備でもない』発言は一面、正しい。ほかの言動はともかく戦力配備には一定の整合性があるとも思われる。

これを踏まえて、今回の決戦。
ガンダムの相手になるのは準ガンダム以上、の原則に従えばアスキラを止めうるのはシンレイ、それにイザークとディアッカに限定される。イザークとディアッカが準ガンダムなのか雑魚なのかは微妙だが、レクイエム守備隊の配置は一応の理には叶っていることになる。だが議長はこの戦線での勝利を期待していない。議長軍は連合相手には圧勝しているし、事実、多数の戦力の残存が確認されている。これをシンレイと一緒に運用し、集中してラクス艦隊にぶつければ勝つことは可能なはずである。が、
現実では戦力の分散がただただ無意味なマイナスになっている。

また、ラクス側にしてもレクイエムの『守らなければいけないポイントが多い』という弱点を十分に利用しているとはとても言えず、わざわざ戦力を分散して攻めかかっている。(ラクスは大軍の指揮には向かないのかもしれない)
今回、中継点でケリをつけようと思えば十分に可能だったのだ。
もっといえば中継点をおとりにしてジェネシスで味方リストラ部隊ごとなぎ払う、という手も可能だったはずである。(辛くも逃れた主人公がレクイエムでジェネシスを撃つとかすれば物語的にも整合は可能)


長くなった。結論は

『議長の行動は合理的であるのに、本気で勝つつもりがあるように見えなかった』のだ。



では、勝てるはずの戦を取りこぼす意味があるのか?
この戦闘もデスティニープランにおける階級分化の一環なのではないか?と思われる。

ぜんぜん強くないウィンダム・ムラサメ。あまり強くないザク・グフ。多少強いとはいえフリーダムに翻弄された3バカガンダム。インパルスでかろうじてフリーダムと互角。CE73に国家によって作られた機体で、性能が傑出しているのは汎用機でレジェンド、デスティニー。性能特化でザムザザー、ゲルズゲー、デストロイ、ユークリッド。上述のように性能分化が進んでいるため、雑魚兵器は何機集まっても事実上効果がないという状態である。

効果がない雑魚兵器をアークエンジェル艦隊にぶつければ、結果的に量産機もろとも兵士が大量に減る。
これこそ、議長が望んだことではないか?

デスティニープランはその性質上、全世界的に一斉にやらなければ意味を成さない。つまり強力な基盤を持つ世界権力の存在が前提になる。
国家の国家たるゆえんは価値(通貨)と暴力(警察、安全保障)の管理であるが、このうち経済面はロゴスの殲滅によってほぼ完了しているといってよい。残るのが暴力の集中管理である。デスティニープランは世界レベルでの構造変換であるため、この暴力装置の担い手も含めて新規に配分する必要がある。

上述の力関係で行けばガンダムと巨大兵器を押さえていれば戦術レベルでは勝てるから、それに乗る“役割”の少数を選別すれば新規分の方はことが足りる。彼の世界はその定義上、敵はラクスのようなごく一部の変異種だけに限られるはずなので戦闘員(というか治安要員)の絶対数が圧倒的に少なくてすむはずなのである。
問題は
既存の担い手、
つまり現在までの戦争状態で大量に発生した兵士人口である。彼らは戦闘力としてはさほど大きな影響はない。が、
支配度に対してもたらす影響が馬鹿にならない。戦闘経験と技術があって兵器がある。そして、彼らには自由意志がある。デスティニープラン実行時の大きな障害となる可能性があるのだ。

その兵士たちが乗っているのは雑魚兵器であり、彼らの大半はラクスたちとの戦闘では死ぬはずである。
49話でのレクイエム防衛戦、真の目的は
敵の手による刀狩りなのではないか?


ラクスたちにより現行兵器と兵士を大量に減らさせた上でこれを討ち、メサイヤの中で君臨する。
機動戦力としてはガンダム部隊を押さえておき、裁きの光として人類の生活圏をどこでも撃てるレクイエム。

今の議長が描きうる“割合ラク”で目的に沿ったプラン、といえばこういったものではあるまいか?



バカの一つ覚えに巨大兵器を用いているのは決して
学習していないわけではないのである。

 

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