ガンダムSEEDデスティニー最終回すぺしゃる 

激動の70年代・その5(最終章)

ー革命の帰結ー



ここまでで、当初の設問『ギルバート・デュランダルがラクスの継承者である』に、一つの指針が見えてきたのではないか?

方法の面では、ラクス・ショックの要素は新生ザフト軍という形で昇華されている。現実に地球軍を連破&旧ラクス軍に少なからぬ脅威を与えるなど、一定の成果を発揮している。
一方、政治面ではデュランダルはラクス・ショックの背景ともいうべき遺伝子問題に直接取り組む意思をはっきり表明している。方法の是非はともかく、これはC.E.71のラクスが行っていなかったことであるから、一歩前進というべきか。

つまり、歴史的存在としての両者の違いは
政策の有無であるといえる。この点議長はラクス・ショックの拡張者であるとは言えるかもしれない。が、時系列的にはどうなのか?議長の立志ないしは軌道修正がラクスの勝利より後ならば、私が当初に述べた意味で、つまり『ラクスの勝利に触発された存在としての“継承者”』ということになる。

が、今の私の見解は微妙である。
まず政治面であるが、議長の最終目的はデスティニープランにあり、それにいたる問題はラクス・ショック以前から存在していて予見が可能であった。また、準備にかかる時間を考えれば議長の政治への参画意思の決定がラクス・ショック以後だったということは考えにくい。また、議長の政体は独裁であり、ラクスのような各界の知己を利用した緩やかな連帯ではない。したがって、議長は政治面ではラクス・ショックの後継者であるとは言いがたい。

一方で、軍事面ではラクス・ショックの特徴である『個人的な関係に基づいた強力なガンダム親衛隊』という要素はよく反映されている。大国のメリットである従来兵器の展開ともうまく併用・連携されているため、新生ザフト軍はラクス軍の成功に大きく規定された存在であるといえる。また、作中での新兵器の投入時間、パイロット育成の時間などのフィードバックは2年という時間でも十分に可能であることが示されている。

したがって、
ギルバート・デュランダルは軍事面ではラクス・モデルの継承者であり、政策面では独立の存在であると考えられる。
これでこの論文の『仮定を検証する』という所期の目的は果たされたことになる。が、一方で根本的な命題が残る。


『あの時代は、なんだったのか?』
本編を書き進めるうちに、ラクスとデュランダルの関係の別の側面が見えてきた。本編最終話とも合わせると、私なりに一つの解答が生じたように思う。本シリーズの最終章にあたる本章ではその点を概説し、締めくくりとさせていただく。



SEEDデスティニーの時代>

ガンダムSEEDデスティニーはまた、ラクス軍と新生ザフト軍の両者を軸にその盛衰を描いた物語でもある。結局のところ、両者はどういう関係にあったのか?政治メカニズムとしての関連は確認ができた。では政治主体としての関係はどうなのであろうか。そして、それは世界情勢とどう関係するのか。


1:ラクスとは何なのか?
いささか遠回りであるが、重要なのでこの点から考えてみる。ラクス・クラインとは何なのか?

C.E.71の挙兵の際にラクスには明確な戦争の連鎖を止め、人類に問うという目的意識をもっている。そのために様々な戦力が囲い込まれ、シーゲル・クラインもこの過程で消されている。

が、戦後になると、彼女は少なくとも表面上は
発言力を一切行使した形跡がなく、そのまま引退してしまっている。また今回の挙兵に際しても、事前に戦闘準備がなされており、彼女自身も決起することが当たり前と思っているフシがあるにもかかわらず、議長を打倒した後の政策ビジョンには一切触れていない。結果として本来なら容易であるはずの『言論による議長の打倒』がなされず、武力衝突につながっている。より重要なのは、ラクス側が反論しているのは議長の間引き強行の点に関してであり、他の政策に関してはおおむね肯定している点である。

してみると、
ラクス軍の動きは重要な政治ファクターであっても、ラクスそのものは政治家ではないのではないか?ラクスの活動はラクス本人の政権奪取やラクス体制という新秩序の形成が目的ではなく、つねに既存の問題点に対する矯正としてのみ機能している。自身の命が狙われても、ラクスはこの行動そのものにはまったく疑問を持たず、議長を打倒するだけで成り代わろうとはしていない。ラクスの活動とは他の何らかの世界秩序を前提にした世界警察としての活動なのではないか。


2:ラクスと新生ザフト
ここで、
ラクスが想定していた『世界秩序』の担い手とはギルバート・デュランダルであり、両者はある時期までは分業的な関係にあったのではないか?という推測が生じる。

強力な政治基盤を持たないはずのデュランダルは戦後の短時間に非常に強力な権力を手にしており、一方、C.E.71決起に際してのラクスはただの国民的アイドルとしては強力すぎる戦力を極めて短時間に整えている。また、本来中立であるはずのラクス(ミーア)と議長という組み合わせについて、世界市民は当のラクスを含めてそれほど違和感なく受け入れられている。

ヤキン・ドゥーエ戦役終了直後の状況では、失地を奪回した上にザフト本土目前まで侵攻した地球軍が有利であったはずである。が、ラクスにせよ議長にせよお互いを主敵とみなしており、本来ならば最大の障害となるはずの地球軍は脇役扱いである。また、ラクスは当初から議長を危険視しているが、ミーア・キャンベルについての批判を行ったのはオーブ侵攻戦の後である。C.E.73決起の原因となったはずの暗殺未遂に関しては公式の場では言及すらなされていないばかりか、議長との外交対話も行われていない。

加えて、
ラクス軍の戦う理由はあくまで『戦いの連鎖』とデュランダルを止めるためであり、同時代の人類の人権のためなどではない。そのためにシンたち新生ザフト軍がヒーローのようにな役割を果たしているシーンが多々ある。また、ラクスはザフトの侵攻活動に対する批判をしても、そのもとになる軍備拡張の批判はしておらず、議長のロゴス認識に対しても批判をしていない。SEEDデスティニー全編を通じて、ラクスと新生ザフトの対立は政治的なゴールの対立ではなく、その担い手をめぐる対立であるように見えるのだ。

またもう一つ、Z・3論文での指摘のように、議長の行動を常に正確に予言(予見)しているというのもデスティニー全編を通じたラクスの特徴である。オーブの片田舎に引きこもっているはずの彼女が、いくら各所に情報網を張り巡らせているとはいえ、なぜ議長の側近ですら知らなかったプランを知っているのか?

ラクスがその政治的立場をフルに活用して議長の弾劾を始めたのは議長のオーブ侵攻の後である。この際に『覚悟はできた』との発言があり、ここからラクスと新生ザフトは公然と対立を開始している。とはいえ、ラクス軍は暗殺未遂の段階で犯人がザフト正規軍であるとほぼ確信しており、議長を敵だとみなしているのだ。つまり、ラクスが議長との全面対決に踏み切る原因としては、
オーブ侵攻>>自身の暗殺未遂ということになる。

このことから、
地球連合を打破して新秩序を樹立する、というところまでは方向性まで含めて両者の合意がなされており、その際には議長がラクスのザフトでの地盤を引き継いでザフトの立て直しを図る一方、ラクスはオーブを足がかりに地上での戦力を拡充するという棲み分けも非公式になされていたのではないか、と推測ができる。

オーブ正規軍の異様なまでの弱さとラクス直率軍のアンバランス、またラクス直率軍がことごとく修理されていたこと、暗黙の了解であったかのようなアークエンジェルの復帰劇を考えれば、ユウナ政権そのものが地球上で連合からの圧力を受ける上でのダミーであったと考えることは可能である。オーブを最後の砦とみなすラクスの発言も何度かなされているが、その時点でオーブはその理念を放棄して事実上の侵攻戦を開始しており、良心の砦としてのオーブ、というのは説得力が弱い。むしろ実質的な戦力としての最後の砦と見たほうが妥当なのではないか。

してみると、C.E.73における戦役とは、C.E.71戦役で残された
旧体制との最終的な決着、そして新体制内での地上軍と宇宙軍の内紛であったのではないか。


3:ポストC.E.73
さて、ラクスが議長と対決する場合、『彼に代わる政権担当を誰に任せるか』という問題が生じる。
これは
キラと見るのが妥当なのではないか。議長との最終的な対話はキラに一任されており、この世界でこうしたときには代表者が直接出てくることを考えれば、50話の時点でラクス軍のリーダーはラクスではなくキラである。ここで、キラ自身の『僕は戦う。覚悟はある』という発言も、彼が作られた目的、つまり人類を導く存在としての自身の運命に向き合う宣言と見ることもできる。またラクス軍の旗機ともいうべきストライクフリーダムはキラ専用にデザインされており、ラクスがキラ覚醒を見越した準備をしていたと見ることは可能であろう。

ここで、両者の対立が必然だったのか?という問題が出てくる。本編を見る限りでは先に仕掛けたのは議長であるように描かれており、ラクスが表面上は政治活動をしていないことを考えれば彼の意識過剰であるようにも取れる。が、その後の戦いぶりはラクス軍はほぼ臨戦態勢にあったことを証明しており、ラクス軍は議長にとって不確定の脅威としてなら十分に説得力がある。
では、ラクスの再軍備は地球連合軍を視野に入れた自衛、つまり新生ザフトとの連携を前提にしたものなのか、それとも新秩序内での政権奪取までを目的とされていたのか?

ラクス自身は縄張りであるオーブを侵されるまでは表立って議長とは敵対しておらず、彼女が戦後2年引きこもっていたことを考えても、当初はキラを表に出そうという意思はなかったのではないか。また、彼女のデスティニー・プランへの姿勢にしても、あくまで自身が消される側にあるが故の消極的反発である。

が、一方で彼女の軍備に注目すれば、政権の奪取を前提と捉えるのは十分に可能である。この時代の戦闘様式では最強のガンダムに政治指導者が乗っているというパターンが理論上の最強になる。ストライクフリーダム、および同時期に用意された∞ジャスティスはどちらもこの条件を満たしている。ラクス自身専用のパイロットスーツを用意しており、彼女の練度も成功者の極めて少ないMSでの大気圏突入が可能な域にまで達している。

結局、
ラクス軍による政権奪取は『物理的に可能』だが『実際問題としてほぼ起こらないであろう未来』であったのではないか。つまり当初の協定通りに議長がラクスを信じ続けることができれば、対立の回避は可能であったと思われる。

ここで、議長の出自が大きな問題になる。すなわち遺伝子研究に携わる人間であり、自己の存在への劣等感がデスティニープランの一つの背景となっている事実である。彼にとって『王』の遺伝子を持つキラ、そしてそれを受け継ぐであろうキラとラクスの子供の危険性は無視できないものであったのではないか?彼が自分の地位を暫定的なものとみなし、仕事を急いだ可能性は否定できない。この点、彼に根ざした人間不信は存外大きなものであったのではないか。
結局、遺伝子問題に取り組むはずのデュランダル自身もまた、遺伝子問題に深くとらわれていたのである。



展望―結論に代えて―

コーディネーターの存在を旧人類と同じとみなすか?、という問題に端を発した戦争は、C.E.73決戦をもって一応の決着を見た。
旧人類(ナチュラル)の世界政府である地球連合、普通のコーディネーターである新生ザフトの試みはいずれも失敗し、
遺伝子ヒエラルキーの中でのエリートであるラクス=オーブ派がこの内戦を制している。また、今回の戦役でヒエラルキーの頂点たるキラが『戦う』旨を宣言しており、これが事実上のリーダーとしての決意表明となるのではないか。議長との対話時にキラが述べたことをうがって考えれば、遺伝子による“区別”を前提とした上での自由社会、つまりはデスティニープランをベースにある程度流動性が組み込まれた、現代のイギリス社会に見られる階級社会のような形で新秩序が編成されてゆくものと思われる。

つまるところ、
C.E.70年代前半は遺伝子による秩序の再編成の過渡期のさなかであり、ラクス・ショック単体が革命だったのではなく、新生ザフト戦役(デュランダル戦役)にいたるプロセスまでも含めて、大きな流れの中での一つのステップであったといえるのではないか。


あとがきにつづく)

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