ガンダムSEEDデスティニー最終回すぺしゃる 

激動の70年代・その3

ー革命の間隙ー


少し困ったことになっている。
当初の目算では、『少人数で国家権力に勝ちうる構図』と『独裁者が輩出されやすい』という傾向がラクスによって証明され、ギルバート・デュランダルがそのパターンを拡張した、として説明するつもりであった。だが連載の過程で風呂敷を広げすぎ、ギルバートがラクスモデルの継承者なのか、それとも共通の認識のもとに別のモデルを作り出したのかが微妙になってきた。
結果として本稿の時点では前項がまだ異様に長いままである。適宜更新をしているが、長いところを読んでくださった皆様にはこの場でもお礼を申し上げておく。

ここまでを踏まえて、当初の仮定通り、『ギルバート・デュランダルはラクス・モデルの継承者なのか?』ということを検証する。

まず、ラクス・ショックからギルバート・デュランダルの乱までの2年の間に起きた変化について考察し、続いてデュランダルの行った方策を概説する。

そこからラクスモデルとの比較を行い、どの程度同質性が見られるのか、また、ギルバート・デュランダルとラクスの相関性について検討してみる。

 

 

C.E.73という時代>

前項までを要約すると以下のようになる。
1:コーディネーターの登場は、平等・再分配という人類社会の根幹を揺るがす大問題となった。
2:C.E.70まで、既存の国家システムは満足な答えは出せなかった。
3:国家システムへの信頼度は大きく揺らぎ、将来が極めて不透明な時代になった。
4:そのため、人々の精神構造が刹那的、かつ受動的なものに変化した。
5:また、人の結びつきは領域国家へのタテ方向ではなくヨコ方向の個人的なつながりへとシフトした。
6:一方で戦闘様式の変化やガンダムの登場など、軍事面でも革命的な変化が起こった。
7:5、6の結果、特定の個人の重要度が飛躍的に増した。
8:以上の変化は、国家の主力軍が15歳の少女が短時間で組織した私兵団に勝てなかったというセンセーショナルな形に集約される。(ラクス・ショック)
※戦争倫理の変化はコーディネーターのもたらした欺瞞への裏返しと見ることもできるが、あくまで推測である。

ラクス・ショックから2年後の世界で、これらの条件はどう変容したのか?

 

 

A:世界政府の不在

『停戦』『開戦』の用語が使われていることから、プラントの独立は国際的に承認されたものと思われる。また、ジブリールとデュランダルが互いを対等の社会的立場と位置づけていることから、プラントは連合に従属する存在ではなく、枠組みの外にある存在であるものと思われる。したがってC.E.73の時点では世界政府は事実上存在しない

 

B:地球連合の弱体化

SEEDデスティニーでは連合政府による、地球住民への無用の武力弾圧(不当ではなく無用)が繰り返し描かれている。その結果、議長の放送に扇動されただけで民衆が蜂起、政府高官を襲撃するほどに不満が高まっている。弾圧にも拘らず民衆は重火器で武装しており、政府の警察能力が大幅に低下していることとが示唆されている。この現象はナチュラル居住地でも散見され、連合政府はいまやナチュラルに対してもその機能を急速に失いつつある

 

C:差別の緩和

C.E.73までにプラントが友好政策を採っていたこともあり、デスティニーではザフトがヒーローないしは解放軍的な役割を持って扱われる現象が起こり始めている。ユニウス事件の際にはコーディネーター襲撃が発生したが、議長によるロゴス批判が行われた際もブルーコスモスによる反動現象は皆無であり、むしろ議長が歓呼の声を持って迎えられている。またC.E.73の戦役時にザフトは地球上に多数の占領地を持っていたが、ゲリラ活動などが起こった様子はない(だから戦力に劣るザフトが逆に連合側のゲリラを支援、戦線を拡大させるということが可能となっている)。また、ザフトによるヘブンズベースやオーブ攻撃時にも地球人民による抗議運動が起きていない。このことから、コーディネーターに対する感情面での反発は前大戦時に比べて大幅に緩和されているものと思われる。

 

D:MSの機能分化

ガンダムと通常MSの戦力差は縮まるどころかむしろ拡大し、その間に『ガンダムとは戦えるが時間稼ぎどまり』程度の戦闘力の準ガンダム級とも言うべき機体が多数登場している。また防御力や攻撃力に特化し、艦艇や要塞に準ずる支援機ともいうべきMAが多数登場している。この結果、ガンダムの圧倒的な優位はむしろ強化されたが、ガンダム以外の手段での勝利も理論上可能になり、戦闘のオプションは拡大している。とはいえ準ガンダムやMAはガンダムを持たなかった地球連合が主として運用した兵器であり、ガンダムという趨勢に対するあがきと見ることもできる。(連合とザフトの激突で連合の兵器運用思想はザフトの前に惨敗している)

 

E:英雄ラクスの下野

『ラクス・ショック』の当事者であるラクスがリーダーになることなく野に下ってしまった。政治に口を出すこともなく、また表面上の軍事力も保有せず、あわせてラクス派も解体してしまった。政治的にラクスの戦力はゼロになり、分派のオーブはラクスを継ぐほどの影響力は持たない実情である。したがってラクス登場で高まったと思われる救世主への期待がそのまま宙に浮いた形になった。一方で、世界独裁を狙う者には潜在的な脅威としてのラクスが残ることになる。

 

 

コーディネーター問題による対立は沈静化の兆しが見られるが、既存の世界政府(だったもの)ではすでに秩序の維持ができず、その結果、将来は依然不透明なままである、といったところか。

威信の低下に対する連合の対応は問題の根本解決ではなくむしろあがきという類のものであり、武力に偏重しているのが特徴である。この結果、連合に代わる世界規模での強力なルールやリーダーが待望される素地ができつつあったと言える。

 

では、こうした世界情勢に対し、ギルバート・デュランダルはどのようなアプローチをしたのか。番組本編で示された個々の政策を概説してみる。


その4につづく)

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