ガンダムSEEDデスティニー最終回すぺしゃる 

激動の70年代・その4

ー革命への解答ー


<ギルバート・デュランダルのアプローチ>

では、ギルバート・デュランダルは何を行ったのか?


A:外交姿勢

<1>開戦前

ユニウス事件では地球の被災地への物資の供出や支援活動を行っている。オーブとの提携も行われており、地球圏の他勢力に対して極力友好的な国家として振舞おうとしている様子が見られる。

 

<2>開戦後のスタンス〜アークエンジェル・テロ

地球軍による侵攻作戦撃退の後、『積極的自衛権』を提唱し満場一致で可決、地球上に一定の占領地を確保した。ただしユニウス事件が濡れ衣であるとのコメントはない。また、ガンダム強奪事件についても一切触れられていない。

この後は主として地球上で連合政府に反発している地域を積極的に解放している節がみられる。が、この時点では連合政府の非人道的行為を糾弾していない。

 

<3>アークエンジェル・テロ〜ロゴス追討宣言

ラクス勢により2度にわたり襲撃され少なからぬ損害を出しているものの、鎮圧に乗り出したのはデストロイ撃破後である。この時点でテロとラクスの関連には気付いていたようであるが、連合>>ラクスという優先順位に変更はない。

 

<4>ロゴス追討宣言〜デスティニー・プラン

敵を地球連合ではなく連合内の一部勢力であるロゴスと断定し、その勢力に対してのみ戦闘行動を行っている。この際オーブも攻撃されているが、口実は『オーブが先に戦闘を仕掛けてきたから』ではなく、あくまで『ロゴスに加担したから』である。この際、オーブのみザフト軍の撃退に成功しているが、外交的な対話は本編ではなされていない。また、オーブ第一波攻撃直後にレクイエムによる攻撃があり、優先がロゴスに変更されている。なお、ギルバート・デュランダルが人類全体の代表者であるかのように振舞い始めたのはこの時期からである。

 

<5>デスティニー・プラン以後

デスティニー・プランの導入を宣言、反対宣言を出して軍を集結させていたアルザッヘルの地球連合軍を先制攻撃。続いてオーブ宇宙軍の攻撃にさらされ、現在苛烈な戦闘中。

 

上述のように、基本的に相手が手を出すまで反撃せず、反撃時には相手の脅威を取り除くまで続けるというスタンスを取っている。一方で、迎撃体制が常に完璧であることから、『相手に先に手を出させたのではないか?』との疑惑もつきまとう。が、現時点では推測の域を出ていない。唯一の例外はアルザッヘル攻撃であるが、連合とザフトは公式には停戦していないから正当化の枠内であると思われる。

ポイントとしてはガンダム強奪が偶然だったのか?ユニウスセブン落下が本当にただのテロなのか?ラクス暗殺未遂事件は誰が手配したのか?という3点である。いずれも“おそらくは議長であろう”との暗黙の了解がなされているが、本編では述べられていない。

 

以上のポイント3点を知りうる人間はごく小数に限定されるはずであるため、一般大衆からは『自分からは手を出さないが戦えば必ず勝つ、頼れるリーダー』と見られているのではあるまいか。

 

 

B:内政

ユニウス事件の際に物資供与を行っていることから、経済的に疲弊しているとは考えにくい。配給や行列の形跡もない。また新型MSも多数が急速に前線に投入されており、兵器の供給も安定しているようである。したがって経済政策はかなりうまくいっているのではあるまいか。また反戦運動の形跡もなく、むしろ支持率は絶大である。地球上と違って暴動が頻発するわけでもなく、ミネルバクルーやミーアなどをはじめ、一般市民にいたるまで殺伐とした雰囲気がない。本編中で示されるプラント市民の映像でも現代日本と同程度、つまり先進国の水準である。また、映像で見る限りではこの時期はプラント市民の方が地球の住民に比べて生活が豊かである。行政面でも安定しているといってよいのではないか?

唯一気になるのが地球上の基地の閑散としている店内。地球上の占領地では奢侈品が十全でない可能性はある。とはいえ地上で作戦行動中の部隊が物資の不足を訴えていた描写はなく、プラントでは安定供給体制が確立しているものと思われる。

一方で彼のもたらした安定は人々の思考力を育てる結果にもなる。ラクス以外で彼の政策に疑念を抱いたディアッカ、イザーク、タリアの3人はいずれもプラントの住人である。

 

とはいえ、現時点でのギルバート・デュランダルはプラント国民に満足を提供しており、有能な政治家として位置づけられていておかしくない。

 

 

C:人事

<1>登用・配置

基本的に適材適所を心がけている。アスランへのアプローチやシンの抜擢にみられるように、有能な人材と見ればその人物の出自や過去を問わず大胆に登用している。

また、タリア・アスラン・シンに対してはしゃべりすぎなくらいに内情を暴露しており、絶大な信頼を寄せている、ないしは問題を共有しようとしているフシがある。

軍事的な配置としては宇宙艦隊に俊英イザーク・ジュール、武闘クライン派(旧ラクス軍だがこの時点ではラクス軍とイコールである証拠がない)に名将グラスゴー、地球圏での遊撃活動にタリア・グラディスを配置しており、いずれも一定の戦果を挙げている。なおグラスゴーに関してはラクスの所在を突き止めるという偉業を果たしたものの、少数の兵力でSフリーダムと遭遇するという不幸に見舞われ、ラクスの捕縛には失敗している。

 

<2>フェイス

軍の中で特に有望と目をつけた人間に対し『フェイス』の称号を与え、特権を持たせている。このフェイスは本編で確認される限り5人おり、全員に最新鋭の高性能機が与えられている。称号の意味そのものが物語の後半で変容している可能性があるものの、前期にフェイス認定された3人に関しては議長に対して自由にものが言える人材が選ばれており、実際に議長も胸襟を開いて話している描写が何度かある。

また、フェイスは議長の直属という意味合いもある。後期フェイスになるとこの意味合いが重要になり、一般兵士として活動していた前期に対し、後期には決戦兵力として一般戦力との差別化がなされている。

 

<3>差別的運用

2項と関連する。フェイスおよび特定の強力な戦力を遊軍としてミネルバに集め集中的に運用している。彼ら以外の戦線での軍事衝突は本編では描写されておらず、また、ニュースにもなっていない。ロゴス追討戦以後は切り込み隊的な役割で主要戦線で継続的に運用されている。ラクス・モデルにおける特定の『個』が囲い込まれ、子飼いの精鋭とするべく集中して経験を積まされていたと推測することは可能である。実際、アスランに語りかけた際にはC.E.70におけるアークエンジェルを特別な艦として位置づけている旨の発言がある。

また、運用面だけでなく待遇面でも差別化が図られている。フェイスの5人はいずれも議長と個人的にも親しい間柄にあり、それぞれが違った形での厚遇を受けている(ただし、ハイネに関しては個人的な厚遇は未確認)。

 

こうした、個の重視と個に対するヨコからの働きかけという点において、ラクス・ショックの要因が良く吸収、反映されているのではあるまいか。とくにフェイス要員にはガンダムが支給され、対アークエンジェル戦闘にも積極的に駆り出されている。

 

<4>切り捨ての問題

本編ではそぐわない者を容赦なく切り捨てる人間である、としてラクスサイドから批判されている。証拠となりそうなのがラクス暗殺未遂、アークエンジェルへの対応、ミーアへの処遇である。が、ラクス暗殺未遂には彼の関与の証拠がなく、アークエンジェルに対しては迎撃として正当化されうる。ミーアの件も議長の直接関与の証拠がないため、限りなくクロに近いとしても現時点ではシロである。唯一アスランへの処遇の問題があるが、彼にはテロリストとの内通の疑惑がかかっていたのも事実である。アスランの脱走に際しても、『殺してもいい』との指示が下ったのは逃走後であり、これまた根拠が存在する。(逃走時点では『殺される』はミーアの推測である。)

 

<5>敵対者への処遇
4と関連する。ここではデスティニー本編内で議長の敵として認知された人間に対する対応である。4とは自分の部下であるか敵対者か、という点で区別される。

本編で議長が公式に敵認定したのは“攻撃を仕掛けてきた”連合軍、“テロリスト”アークエンジェル、ロゴス幹部、“ジブリールをかくまった”オーブである。いずれも議長に先制攻撃した前科があり、この認定基準で議長の人格を批判するのは早計であろう。

 

戦って負けていない上に内政でもうまくいっているので、現時点では彼の人材配置は正しかったように見える。また、配置された人材のうち特定の集団が差別化され、集中的に練度を高められているのも一つの特徴になる。ここまでならばコーディネーター問題の時代の一つの解決策ともなりうるのではないか。

問題は切り捨てに関する部分であるが、アスランにせよタリアにせよ、不満があったら自由に言ってもいいと公認されているにも拘らず、議論をしようとしていない。連合のコープランド、ラクスにしてもしかりである。いずれも一方的に宣言をしたのみで議長と外交交渉をしようとはしていない。

つまり、事情を知らない大多数の一般市民にとって『議長は従わない者は容赦なく切り捨てる』という主張は説得力を欠くのである。

 

 

D:軍事

開戦時までは軍縮条約にしたがっていたらしく、セカンドステージ機は性能、保有数とも基準にのっとったものであることが公式サイトで述べられている。一方、開戦後に追加された展開兵力はザフトの方が多い。何らかの方法で条約の隙間をすり抜けていた可能性もあるし、ザフトの兵站が単純に強力だったと考えることも可能である。とはいえ、パイロットの育成には時間がかかるはずなので、ここでは前者を支持する。

より大きなポイントとしては『ザフトの兵力がやけに多い』ということに関しての批判が見られないことである。たとえばラクスやカガリがこの点に言及してもおかしくはない。が、本編にそのような描写はない。開戦の口実を待っていたであろうジブリールにしても、開戦時にMS工場の実態をすっぱ抜くなどして不当軍備の方の非を鳴らすことも可能だったはずであるが、それもなされていない。

このため、一般人の見る限りは議長は条約をちゃんと実行する有言実行のリーダーとなるはずである。

 

また、開戦後に新規に投入されたMSには、囲い込まれた戦力が育っていることを前提としたガンダムタイプが2種類含まれている。量産MSも質・量ともに増強されており(数度の戦闘で相当の被害が出ているにも拘らず、49話で開戦時以上の戦力が確認されている)、従来型の戦闘に数でも対応できるようになっている。この結果、敵量産MSにガンダムをぶつける必要が大幅に減少し、ガンダムがより決定的攻撃に専念しやすくなっている。また、ガンダムと量産MSの分業や2点同時攻撃など、この戦力の運用に関するドクトリン(戦闘原則)も整備され、戦闘オプションが拡大したC.E.73時代でも圧倒的な強さで地球諸軍を撃滅した。

 

この量産MSとガンダムとをうまく使い分けた形での用兵こそ新生ザフト軍の特徴であり、既存国家とラクス軍双方の長所が取り込まれているといえるのではないか。

 

 

E:情報収集

これまで見てきた限り、入念に準備し、事件が起こった際に迅速に対応して敵手を圧倒するのが議長のスタイルであるように見える。このためには情報収集が要になるはずだが、議長の情報収集力はどうなのか。以下に本編での事例を列挙してみる。

 

入手成功:地球軍による核攻撃、決戦兵器デストロイの存在、オーブでのジブリール潜伏、コペルニクスでのラクス軍の動向

入手失敗:ユニウス7落下、レクイエム第一射、ラクス軍のフリーダム配備、アークエンジェルの潜伏先、ラクスがオーブにいたという事実

 

このうち、ユニウス7とレクイエムに関しては本当に失敗だったかという疑惑が残る。証明こそされていないがユニウス7落下には議長が絡んでいたフシがあるし、レクイエムも議長に接収された後に最大限に活用されている。

 

問題はラクス軍である。議長の“刺客”は(S)フリーダムにより2度にわたり敗北している。一方で、本編中では議長の待ち伏せというのは大体において大戦果を挙げている。ニュートロン・スタンピーダに始まってアルザッヘル艦隊の殲滅にダイダロス襲撃艦隊の撃滅と、時間がかかるはずの狙撃兵器の狙いはいつも的中している。

ラクス軍攻撃に際しても第一回はアッシュが10機近く用意され、第二回はグラスゴー艦隊3隻に搭載数の倍近い40機近くのMSが配備されている。コペルニクスでラクス軍の行動が逐一マークされていたことを考えると、問題は情報収集全般のミスではなくフリーダムに関するミスに限定される。つまり『ラクスがある程度の反撃をしてくる』ことまでは予測されていたのではないか?そして、フリーダムの存在だけまるまる見落とされていたか、あるいは過小評価されていたかである。

最後にラクスの所在の問題がある。ラクスの演説に驚いていた議長は、彼女がどこにいたと思っていたのか?おそらくはエターナルにラクスがいたとの予測であろう。カラクリは∞ジャスティスによるラクスの大気圏突入である。さすがにこれは予想できなかったのではあるまいか。

 

つまり、議長は事態に対する予測と準備に関しても高い能力を持っており、一般市民相手には十二分に合格点である。が、政敵であるラクスにはことごとく出し抜かれており、致命的なミスが続出している。

 

 

F:メディア戦略

ロゴス批判とミーア・キャンベルの利用がこれに当たる。

ロゴス批判は内容そのものはめちゃめちゃであり、武力排除という手段も乱暴である。が、スケープゴートとしては有効であり、民衆の蜂起を見る限り人々の心情にも一致しているように見える。してみるとロゴス批判はロゴスそのものの打倒が目的というよりは連合の内からの切りくずしが真の狙いと見たほうが良いのではないか。
また、ロゴス批判のもう一つの側面として、ここで吊るし上げられているのが旧体制の支配層である点が挙げられる。実際にこの宣言以降議長が主導権を取り続けており、ただの切り崩しにとどまらず、世界の新指導者の方策としても非常に有効なものであったといえる。

 

ミーアの利用に関しては、しゃべらせないことが大きなポイントになっている。主役はあくまで議長であり、彼が全世界的に支持されたのもみずからロゴス打倒を唱えてからである。その際、前大戦の英雄の無言の支持は議長の正当性を強力に補強する。

 

デスティニー・プランに関しては問題提起が繰り返しなされ、プランのつかみだけが語られている状況である。続きが語られることが半永久的になさそうなので微妙であるが、基準不在の時代であることを考えれば詳細を述べないことが逆に有効なのではないか。

 

 

G:政治認識

ここまでで、ギルバート・デュランダルは問題解決には非常に優れた、有能な実務家であるとの印象を持った。つまりプラントという現行の体制を維持していくのには十分であるし、おそらくは拡張も可能である。では世界政府の旗手としてはどうか?彼の政治認識とビジョンについて確認してみる。

 

劇中で彼がアスラン、シンたちに語りかける描写は何度かある。また第一話でカガリにも語りかけている。ロゴス批判やデスティニー・プラン宣言でも述べられている。殆どの場合は現状の追認と問題意識である。彼の語るところでは戦争状況が一番の問題であり、武器があると使いたくなる、あるいは使わせるように煽るやつがいる、ということと憎しみの連鎖がその原因である、としている。根源的には無知と欲望、ということだがデスティニー・プラン同様に細かい説明はなされていない。そして解決策としてはデスティニー・プラン、つまり遺伝子による人類の再配置を提示している。

 

このデスティニー・プランであるが、C.E.世界の実情をかんがみれば戦争対策というより遠因である基準崩壊そのものへの対策と見たほうが妥当なのではないか?差別そのものに言及すればそれは戦争につながったほどのデリケートな部分に触れることになるから、表面上はまず目先の問題である戦争に言及している。遺伝子の専門家であるにも拘らず、彼がコーディネーターとナチュラルの差別問題に言及したことはない。そのため、おそらくは意図的に避けているものと思われる。それを踏まえれば、議長の真の問題意識は戦争ではなく遺伝子問題にあるといえよう。これは時代の要求に合致する。

 

政治、経済の認識に関してはご多分に漏れず、すべてに対して表現が抽象的なのは否めない。ポイントは彼が政治・経済に関して素人である可能性があるということである。歴史を紐解けば戦争は感情ではなく国家や支配者の利害調整で起こる場合が多く、世界規模での経済システムに特定の勢力が圧力を加え続けるのは民主主義の下では至難である。したがって彼の主張は一理はあるものの的外れということになる。

 

もっとも、デュランダルの出自は遺伝子学者であるから、政治に関する知識が浅くてもおかしくはない。ノウハウがなくてもしかるべき人間を適所に配置できれば仕事は進むし、彼はその点では達人である。また、彼が本来最大の問題&大前提であるはずの遺伝子問題について触れずに話を進めているのも、彼にとっては暗黙の前提だからなのかもしれない。語った内容にしても演説は学術的正確性よりもインパクトが重視されるし、アスランたちを相手のときは叩き台としての意味も持つ。してみると彼の知識がどの程度なのか、正確には不明になる。

 

そして、民衆にとっては遺伝子問題の専門家だった人間が『戦争(とその背景である遺伝子問題)に問題意識を持ち、(遺伝子の専門家として)遺伝子による基準問題に取り組む』ということが決定的に重要である。むろん()内は本編で議長は明言していない。が、議長を一般人が見るときに必然的に伴う期待なのではあるまいか?前歴と実績から『この人なら絶対に大丈夫だろう』と思われてもおかしくない。

 

 

H:デスティニー・プラン

では、デスティニー・プランとは何か?本編ではほとんど具体的に語られていないが、一言で言えば『遺伝子に基づいた全人類的な適材適所』である。たしかにプラントの生活水準は落ちていないから、議長その人の適材適所を見分ける能力にはある程度の信頼性がある。が、遺伝子で適材適所を完全に決定することが可能なのだろうか?それに適材適所とはどこまでを言うのか?

 

これについては、Z・3氏による考察では、これから出生する人間たちの新規振り分けではなく、現状の人類の再配置であるという。後天的な経験の要素が無視されているとの指摘である。また、現在我々が認識している範囲では“適性”は大まかな振り分けまでしかできず、ピンポイントまでの絞込みはできない。つまり職業が『兵員』『農民』『僧侶』など数種類しかない世界でならまだ可能であるが、現代のように職業が数十万に細分化された世界では相当に厳しい、という主張である。

 

なお、アスランたちの発言によれば人生や人格までが決め付けられるとまで思われている。この場合根拠となるのが『戦争からの脱却』と『無知と欲望からの解放』発言であろう。議長のプランに感情のコントロールまでが含まれるかどうか、という問題もある。この点については、アスランにセイバーを与えた際に『好きにしてくれてかまわん』という言い方をしており、適材適所がなされれば自由意志に任せても均衡が達成されるという考え方である、とここでは位置づけておく。つまり感情コントロールは必要ないという見方である。

 

<1>実際の有効性

議長の説明では『プラントの最新の知識を結集して最適な振り分けを行う』とのことで、具体的な答えは示されていない。では逆に、いまのプラントではどの程度のことができるのか?

彼がこの腹案を抱いていて、なおかつ絶対成功する確信があれば、まずは子飼いに影響されるはずである。ということで議長に近しい人物の本編での素質と実際の運用、素質から結果が予想しえたかを比較してみる。

 

適性

実際の運用

遺伝子からの失敗予測

ミーア・キャンベル

アイドル活動:◎ スピーチ:△ 柔軟性:× 忠誠:○

アイドルとして成功。ラクス暗殺のオトリにしようとして失敗。

可能(柔軟性×)

シン・アスカ

パイロット:◎ 軍人:△ 忠誠:○

子飼いのパイロットとして成功。

不可能

アスラン・ザラ

パイロット:◎ 007:◎ 軍人:△ 忠誠:× 自発性:△

戦略級の独立指揮官にしようとして失敗。

可能(軍人、自発性が△)

タリア・グラディス

艦長:◎ 指揮官:○ 軍人:◎ 忠誠:△

戦略級の独立指揮官として成功。ただし裏切る可能性あり。

不可能

レイ・ザ・バレル

パイロット:◎ 指揮官:◎(クルーゼの場合) 軍人:○ 忠誠:◎

子飼いのパイロットとして成功。

不可能

 

これにジュール隊までを加えてみる。議長による働きかけの跡が見られ、実際に損害が出ていないために遺伝子的に戦闘適性がある人間が集められている可能性があるのだ。

ここまででわかるのは、特定の少数で他の主体(ラクス軍など)からの働きかけがなければ一定の成果を示しうる、ということである。が、全体レベルでの最適配分はプラントという単位ですらまだ行われていないようである。行われているならザフト軍はヘブンズベースでもジュール隊並の反射神経でもっとずっと少ない犠牲で勝ち得てもおかしくないし、ラクスに代わるカリスマが用意されていてもよいのである。とはいえ、上記結果だけではラクスの要素さえなければ成功率が高い。成功の可能性を否定しきれないのも事実である。

 

<2>問題点

一つの鍵になるのが後天的な学習(経験)の要素をどう位置づけるかであろう。先天的な素質に経験の補正が加わり、人間のパフォーマンスが決定される。私の経験則ではどんな人でも○くらいのところまではいけるという実感である。本来の適性ではない職業に割り振られた人間をどうするか、また、遺伝子的な再配置であれば人類の王として君臨するのはキラ・ヤマトであって議長ではない。この点をどうするのか。というのがZ・3論文の指摘である。

デスティニー・プランを都合よく考えれば遺伝子情報によってみんなが◎発揮が可能な社会の実現であるが、議長の周りを見ている限りでは◎のアスキラ、ラクスにいずれも対抗できていない。この点デスティニー・プランで実現される社会には、現行の基準値以上のものには対応不能というひとつの限界がありうる。あわせて、再配置の基礎データが現状をすべて網羅しているかという問題、データ管理の安定性などの問題もある。

また、<1>の例ではいずれも『新規に選抜』が可能な状況である。100人の人間から5人を選べばいいというのと100人を100人に再配置するというのは問題の本質が異なる。

加えて、再配置が極端である場合には既存の勢力からの抵抗が予想される。これをどこまで強行するのか。強行できるのか。

 

議長の計画は、具体性をちょっと考えていけば以上のように問題がすぐに浮上する。詳細に検討を加えればもっとであろう。この点については本編で一切明言されていない。のみならず具体的な点についても議長は殆ど語っていない。議長の性格からいけば抵抗勢力が予測されている場合には先んじて対応するはずである。対応がないということは予測がなされていないのではないか。

 

つまり、デスティニー・プランの詳細については議長自身もまだ検討中なのではないか。具体的に明言しなかったのは言わなかったのではなく言えなかった、という可能性である。

現時点ではただの方針表明に過ぎず、議長も知らないがゆえに遺伝子というものに過剰な期待を抱いているのではないか。

 

<3>理念としての有効性

とはいえ、コーディネーター問題の渦中にあるC.E.世界の住人の場合、デスティニー・プランの有効性はまた違ったものとなる。

議長の提示したのは遺伝子による全人類的なラベルわけであり、コーディネーター問題の一つの本質である欺瞞性の問題は解消されるし、ナチュラルとコーディネーターの違いに対する線引きにも一定の答えが示される可能性を秘めている。この点こそ既存の世界政府が答えられなかった問題であり、問題は戦争になるくらいまで深刻である。そして、代案となるようなコンセプトは今のところ存在しない。

C.E.73の市民にとって、デスティニー・プランは渇望してやまなかった解決策なのではないか?

49話時点でラクス軍が少数派に見える背景は、市民が事態を理解していないのではなく、直感的に受け入れた結果だと考えることもできる。


 

I:粛清

ロゴス批判以後は粛清の嵐が吹き荒れる。正確に言えば『積極的自衛権』による進駐の時点からプラントは防衛ではなく侵攻戦を戦っている。が、『二人のラクス』の時点まで議長はプラント・地球を問わずに支持されている。一つには外交の項で述べたようにすべてが名目上は迎撃戦だからであるが、より大きいのは議長の世直し的な側面である。ロゴスにしてもユウナ政権にしても旧体制側であり、彼らの2年間の政策は地球住民の目には世界政府の信用失墜の元凶と映るはずである。

 

 

J:ラクス認識

ギルバート・デュランダルはラクスを過剰といってよいほどに意識していた。暗殺や偽ラクスにはじまり、アスランにも動向を確認したりチェス盤を眺めるときにクイーンとして意識したり。偽ラクス・ミーアは士気高揚に議長発言の権威付けとフル活用されている。暗殺時に差し向けられた戦力も基地制圧が可能なほどの戦力である。

このことから、ラクスの能力を極めて高く評価しており、同時に脅威として認識もしていたと思われる。より重要なのは、彼はラクスが在野であり続けられることを信じていなかったということである。

 

 

 

結論に代えて

ここまでの分析で感じられるのは手堅い人物像である。入念に情報を収集し、万全を期して動く。人材配置にしても良く見て適材を配置している。方向性としては既存の体制にラクス・モデルの長所を取り込みつつ新たなモデルを模索し、ラクス・ショックの直因である遺伝子問題と世界政府の悪弊という問題にも正面から立ち向かっている。また、独裁者ではあるものの対話を拒んでいる様子はなく、むしろ意見を言ってくれと彼の方から語るシーンが何度かある。コーディネーター問題を含めた世界の未来に対して曲がりなりにも解決策を示しており、ある意味世界の未来を一番真剣に考えていた人間であるとも言える。(独裁者になりたかったというよりなってしまったのではあるまいか?彼と対等なレベルで議論できる人間の絶対数がそもそも少ないはずである)

 

C.E.73市民にとっても、ギルバート・デュランダルはその出自、問題意識、能力、実績、政策プランいずれも一流であり、歓迎すべき指導者であったと思われる。実際、ロゴス批判の時点でギルバート・デュランダルの人気には絶大なものがあった。地球市民も連合政府ではなく彼を支持しており、デスティニー・プランを導入しなくても彼が世界的な独裁者になる目はあったと思われる。この時点で彼に対抗しうるのはラクスくらいであろう。

 

とはいえラクス側がデスティニープランの代案を持っているわけではなく、議長に議論での反撃もなされていない。不幸なことに、最初の暗殺未遂を議長の差し金と断定したラクス側の態度は硬化しており、その結果の対立が互いに無視できない悪影響を与えている。上で見たように、彼の失敗面はラクス関連に集中している。とくに『二人のラクス』では彼には初めて驚いた様子が見られ、以後の行動に焦りが垣間見られるようになる。たとえばミーアにラクス批判をさせるでもなく、慰問に使うでもなく、およそ遺伝子的に不適な任務で無駄に失っている。またアルザッヘルに対しては初めて先制攻撃を行っている。49話では戦力を無駄に分散した挙句にミネルバを失いかけている。むろん間引きと見ることも可能であるが、スタンスが崩れ始めているのではあるまいか。

 

一言で言うなら、ラクス・ショックの背景を正確に理解したがゆえに成功し、ラクスという存在を過剰に意識したために失敗したのである。

その5につづく)

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